新型コロナウィルスの流行を経て、現在は「アフターコロナ」と呼ばれる時期に突入しています。行動制限もなくなり人の流れや消費がビフォーコロナの頃に戻ってきつつある今、企業としての経営はビフォーコロナの頃のままに戻ればいいのかといえば、実はそうではありません。
コロナを経験したことにより、人・物・金の移り変わりが見られるため、企業としても取り組むべき課題があるのです。この記事では、アフターコロナの現在、企業が取り組むべきことについて解説します。
「アフターコロナ」の定義とは?
「アフターコロナ」とは直訳すれば、新型コロナウィルスの流行後となります。コロナが蔓延し緊急事態宣言が出され人々の行動が大きく制限されていた「ウィズコロナ」の時期を経て、ワクチンなどである程度コロナをコントロールできるようになった時期だといえます。
ここで重要なのは、コロナを経験したことで、アフターコロナはビフォーコロナと同じに戻らないという点でしょう。企業におけるマーケティングも、新たなマーケティング手法が必要となるのです。
コロナ禍以後の経営の状況とは?
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが東京・大阪・名古屋の3大都市圏の中小企業約9000社に対して、2022年1月に行った「アフターコロナを見据えた成長戦略についてのアンケート」の結果を分析していきます。このアンケート結果は、「製造業」「卸売・小売業」「建設・運輸業」「サービス業」の4業種区分で分析されています。
コロナ禍以後の経営状況は大きく二極化
コロナ禍以後の経営状況についての問いには、実に9割超の企業が「黒字」と回答しています。ただしその黒字の中でも半数は「前期と同等、または減益」との回答でした。赤字への転落は回避しているものの、やはりまだまだ順風満帆とはいかず厳しい状況下だということがうかがえるでしょう。
次に「コロナ禍による経営利益の増減」についての問いに対しては、「プラス10%超の増大」と答えた企業が21.3%に上りました。一定の企業が、実質的に追い風を受けているのです。その一方で「マイナス10%超の減少」と答えた企業も20.7%という結果となり、経営状況は大きく二分化しています。
業種別では、「建設・運輸業」は25.9%が「マイナス10%超の減少」、19.8%が「マイナス1~10%の減少」と回答しており、合計すると45.7%が減少したと答えたことになります。コロナ禍において運輸量が減少したり、工事の延期や中止を余儀なくされたりした影響でしょう。「製造業」においては、「減少」の割合と「増大」の割合がそれぞれ40%台で拮抗する結果となっています。
影響がなかったと答えた割合は13.4%にとどまり、マイナスかプラスかどちらかに明暗分かれた結果だといえるでしょう。「卸売・小売業」は、「プラス10%」「プラス1~10%」合わせて経営利益が増大したと答えた企業が45.8%にも上りました。食料や飲料などのいわゆる「巣ごもり需要」に支えられた結果でしょう。「サービス業」は、「プラス10%超の増大」と答えた割合が4業種で最も低い、17.8%にとどまりました。活動が制限されてしまったことで、最も打撃を受けた業種だといえます。
経営環境の変化とは?
次に、「新型コロナウィルスの流行によって経営環境にどのような変化があったのか」の問いに対しての結果をみていきましょう。
1位は「調達先の供給量と調達コストの変化」でした。コロナ禍によって物が売れなくなってしまったという背景には、消費者の購買行動の変化というよりも、生産したくてもできなかった業種もあるのです。商品を消費者に届けるまでに、「原材料や資材の調達⇒製造⇒在庫管理⇒配送⇒販売⇒購入・消費」という流れ「サプライチェーン」を実現する必要があります。
その流れを実現するにはさまざまな企業・業種が関わり合う必要があり、1つの企業で「生産」や「調達」がストップしてしまえば、消費者が購入・消費したくてもできない状況に陥ってしまうのです。コロナ禍において、自社の努力だけではどうしようもない状況に陥ったことが顕著だった結果の1位でしょう。
2位は、「従業員の働き方の変化」でした。コロナ以前から「働き方改革」を推進する企業が増えていた中で新型コロナウィルスの流行に突入し、働き方改革が一気に加速したことはご存知でしょう。たとえば、オンライン会議やリモートワーク、時差出勤やフレックスタイムなどがその例です。運輸業や建設業など積極的な導入の難しい業界もあるものの、コロナを機に商談や会議にオンラインツールを導入したり、ICT化を推進したりが進んだのは確かといえます。
3位は、「最終消費者の購買行動やニーズの変化」です。とくに卸売・小売業やサービス業といった最終消費者と直接接する業種において、変化を強く意識した結果でしょう。
今後重点的に取り組むべき課題とは?
これまでのアンケート結果を踏まえ、「今後の事業展開において重点的に取り組むべきだと考える課題」という問いについての答えを見ていきましょう。1位となったのは「組織・人事戦略、人材の育成」でした。その後2位には「収益の改善」、3位には「会社戦略」が続く結果となりました。
業種別に見ると、製造業は「新規事業開発」と「サスティナビリティ」、「サービス業」は「全社戦略」を挙げた割合が他業種より多くなっていました。また、「サービス業」では「IT・DX対応」を挙げる割合も高くなっており、新サービスの開発に重点を置いていることがうかがえるでしょう。
コロナ前後での消費者の価値観の変化とは?
コロナの前後において、消費者の価値観はどのように変化しているのでしょうか。
ビフォーコロナにおける消費者の価値観
ビフォーコロナの消費行動のキーワードは、「イミ消費」と「トキ消費」です。東日本大震災以降、環境保全や健康維持、文化・歴史伝承といった商材の付加価値に共感した上で購入する傾向が生まれました。これがいわゆる「イミ消費」です。
また、SNSの利用者が増加するにつれ、他の人は経験していない希少な体験を自慢したい、楽しみたいと望む人が増加しました。そのため、特定の人や瞬間、場所だけで経験できる価値にお金を払いたいという価値観が生まれました。限定した時・場所でしか体験できない「非再現性」と、主体的な参加に価値がある「参加性」、盛り上がりに消費者自身が貢献できたと実感できる「貢献性」の3つが特徴の「トキ消費」です。
ウィズコロナにおける消費者の価値観
コロナ禍に突入すると、緊急事態宣言などにより消費者の外出の機会が大幅に減りました。そして、店舗に出向かず買い物ができるネットスーパーやネット通販の利用者が大幅に増加しました。外出の機会が減ったことにより消費が減る一方だったかというと、一概にそうだとは言えません。
いわゆる「巣ごもり需要」で、テレビやパソコンなどの耐久消費財の売り上げが伸びたり、外食に代わってデリバリーやちょっと贅沢のできる高級食材の需要が高まったりしたのが、ウィズコロナにおける消費行動の特徴でしょう。また、支払い方法も、非接触で支払いできるキャッシュレス決済も急速に広まりました。
アフターコロナにおける消費者の価値観
コロナがなくなったわけではないものの、行動制限が解かれ5類感染症に移行したことで、消費者の生活はコロナ流行前に戻りつつあります。
ただし消費者の意識までコロナ前に戻ったかというと、決してそうだとは言えません。たとえばコロナ禍においてリモートワークしていた会社員が、アフターコロナに通勤できるようになって喜ぶかというと、面倒に思う人の方が多いことが予想できるでしょう。ただし、通勤を楽にしたいという消費者の需要に応える商材やサービスを考えれば、商機があるといえるでしょう。
旅行や外出、外食などの消費は回復していくことが見込まれるものの、自粛生活で一度冷え込んだ化粧品や衣料品などの需要は完全に回復したとは言えません。ここからどう消費を動機づけていくのかが、業界全体としての課題でしょう。
アフターコロナを意識した経営戦略・マーケティングとは?
これまでの経営戦略・マーケティング手法は、アフターコロナにおいて通用しないことが考えられます。次の5点のように、アフターコロナを意識した経営戦略・マーケティングが必要です。
専門性を活かす
各業種では専門性を生かしたサービスや物作りを行っているはずです。ただしその専門性を発信しているかと言えば、そうだとは言えないでしょう。
たとえばレストランで料理教室を開催する、クリーニング店でプロのしみ抜き方法が知れる洗濯教室を開催するなどが考えられます。消費者は喜びを感じられ、企業側も既存の専門性を展開すればいいだけなので費用対効果に優れる手法でしょう。
異業種もリサーチする
業界の垣根にこだわらず、他業種に進出できないかアンテナを張るのも大切です。とくに今商機があると言われる介護の分野に進出できないか考えてみましょう。フードビジネスの企業や警備の企業がそのノウハウを活かした介護施設を経営するのが、その例です。
コミュニティを提供する
ウィズコロナによってECサイトの利用率は上昇を続けています。ぜひネット上に販路を整備しましょう。その際に、商品の魅力を発信したり商品を販売したりするだけでなく、双方向にコミュニケーションの取れるコミュニティを形成することが重要だといえます。
たとえば、企業側に商品について気軽に質問できたり、購入・利用している人と、購入・利用を検討している人が情報交換できたりする場を設けることが考えられるでしょう。既存の顧客との結びつきを強化させると同時に、新規顧客の獲得が期待できます。
「不便益性」を活用する
「不便益性」とは、「不便(デメリット)が益(メリット)を生む」というマーケティングの研究結果からくる言葉です。たとえばテレワークが普及してしまった以上、アフターコロナだからといって通勤が復活することに不便益性を感じてしまいます。その不便さこそ、収益を生むビジネスチャンスになり得るという考え方です。アフターコロナだからこそ生じる不便益性に目を向けてみましょう。
情報発信
今や企業も複数のSNS媒体を活用して情報発信するのは、当たり前となっています。自社の商品・サービスについて積極的に発信しましょう。その際に、商品・サービスのセールスポイントだけでなく、開発までの苦労や願いなどのエピソードを発信することで、そのストーリーに共鳴した消費者が購買に至ってくれることが考えられます。また、企業のもつ技術を発信したり、商材のさまざまな活用法を紹介したりすることも有効でしょう。
アフターコロナを意識した営業戦略とは?
営業戦略も、アフターコロナを意識して練っていきましょう。
インサイドセールスチームの発足
「インサイドセールス」とは、オンラインの会議ツールなどを利用して内勤営業を行うことです。従来のマーケティング部と訪問営業部の間に入って、見込み客の育成や顧客対応、クロージングなどに当たります。また、いつコロナが爆発的に流行するか分からないので、インサイドセールスチームを発足しておくことは必要不可欠だといえるでしょう。
潜在的な売り上げを伸ばし、失注率を減らせるはずです。また、営業のオンライン化も同時に進める必要があります。
オンラインの活用
アフターコロナにおいても、直接訪問されるのを嫌う傾向は継続しています。そのため、ビフォーコロナでは一般的だった飛び込み営業や御用聞き営業といった営業スタイルは、好まれなくなってきているのです。労働人口が減少の一途にある事からも、アフターコロナにおいてはITによるインサイドセールスをメインにした方が効率的だといえるでしょう。
アフターコロナを意識した働き方改革とは?
アフターコロナにおいては、従業員の働き方改革も急務です。
リモートワークの導入
アフターコロナとなり、リモートワークから通勤による勤務を復活させた企業も多いのではないでしょうか。ところがリモートワークには、通勤中の感染を避ける意味合い以上のメリットがあるのです。具体的には、通勤時間が不要になる点、従業員のプライベートの時間の充実により仕事に対する満足度がアップする点などです。
コロナ以前からリモートワークを取り入れてきた企業は、コロナ禍においても業績を伸ばしていることが分かっています。アフターコロナだからといって従来の働き方に戻すのがベストだと安易に考えず、リモートワークを積極的に導入・活用していきましょう。
働きがいのある環境づくり
「働きがい」とは、単に仕事にやりがいがあればいいのではありません。やりがいがあるからといって、仕事ばかりでは従業員が疲弊していくばかりでしょう。待遇面での働きやすさもあって初めて、働きがいが実現するのです。従業員がキャリアを構築できる研修制度を導入し、働きがいを感じられるようになれば、離職率も減り業績の向上へとつながることでしょう。
アフターコロナを意識した経営方針とは?
アフターコロナを生き残るには、経営方針を見直したり大胆に変革したりすることも求められます。
市場の変化に対応する
新型コロナウイルスの流行前後では、市場は大きく変化しました。たとえば来店して食事する客が減った飲食店では、デリバリーやテイクアウトの需要が伸びました。配送業においても、ECサイト利用者の増加で配送料は増えたものの対面での受け渡しが問題となり、「置き配」などの新たなサービスが誕生しています。既存の事業内容や市場、収益モデルに固執せず、新たな市場開拓に移行することが求められるでしょう。
経営資源・企業価値を最大限に活かす
アフターコロナにおいては、これまで通用してきた正攻法や定石が通用しなくなっていることを自覚しなければなりません。今まで見過ごしていてもやり過ごせてきた企業の問題や経営資源も、アフターコロナでは何も変革しなければ淘汰されてしまうでしょう。「ヒト・モノ・カネ」という経営資源や偉業価値を最大限に活かす経営を再構築しましょう。
アフターコロナに取り組むべき課題とは?
最後に、企業としてアフターコロナを勝ち抜くために取り組むべき課題を解説していきます。
組織・人材の育成
業種問わず、組織と人材の育成は最重要課題でしょう。とくに既存の労働者の高齢化が進む運輸業・建設業においては、若手の印材育成環境の整備によって離職を防ぐ手立てが急務だといえます。
経営戦略の立て直し
時代の流れに沿って、従来の風習・習慣にとらわれないビジネスモデルに挑戦するような、抜本的な経営戦略の立て直しを図っていくことが、アフターコロナでは求められます。
収益の改善
中小企業の強みは、新たな需要創造にフットワーク軽く挑戦できることでしょう。持続可能な収益改善と並行して、新規事業開発にも挑戦していきましょう。
資金調達方法の多様化
中小企業は銀行融資に頼りがちではあるものの、事業が回復しないまま銀行融資のみに頼っていては危険でしょう。アフターコロナでは、売掛金を現金化する「ファクタリング」など、資金の調達方法を多様化させておく必要があります。
まとめ
アフターコロナに突入したものの、企業の経営状況はまだまだ厳しい状態が続いています。中小企業がアフターコロナを生き残るには、「人・物・金」といった経営資源を最大限に活かしつつ、既存の価値観を柔軟に変革していく姿勢が重要となるでしょう。