新型コロナウイルスの流行は、飲食業界や旅行業界などさまざまな業界に打撃を与えたのはご存じでしょう。それでは、エステ業界はどうでしょうか。これからエステサロンの開業を検討している人、売上のアップや安定化を図りたい経営者の人向けに、エステ業界の最新動向を解説していきます。
今後の課題や解決策、エステ業界の激しい競争の中で生き残るポイントなども合わせてお話ししていきましょう。
エステサロンの市場規模は?
まずは近年の、エステサロンの市場規模を見ていきましょう。エステ業界の市場規模は近年ほぼ横ばい状態が続いていました。ところが2020年に新型コロナウイルス感染症の拡大で「緊急事態宣言」が発令されると、エステサロンの市場規模は大幅に縮小されてしまいました。2021年も縮小が加速、2022年にも変わらず減少傾向にはあるものの、多少の回復傾向が見られるようになっています。
具体的な数字で言うと2018年・2019年は約3,600億円規模にあったものの、2020年には3,300億円、2021年には3,200億円、2022年度3,140億円でした。分野別には、「女性向け痩身・脱毛・フェイシャル」が全体の約65%を占め、約2,055億円規模の市場となっています。
個人の消費傾向を見てみると、女性の年間来店回数もコロナ後は増加傾向へと回復しています。ところが1回当たりの利用時間は短くなっています、とくに「30分未満」の利用増加が顕著であり、その分料金の縮小へとつながっているのでしょう。逆に市場において好調なのが、男性向けのエステサロン分野であり、着実に微増を続けています。低迷してしまったエステサロンの市場規模を回復させるとともに、業界で生き残っていくための手立てが各店舗において必須だと言えるでしょう。
エステサロン業界の市場動向とは?
次に、エステサロン業界の市場動向を見ていきましょう。
男性の美意識の高まりによるメンズエステサロン市場の拡大
以前から美意識の高い男性は一部いたものの、現在は男性の中で美容に気をつける意識が広く一般化していると言えます。とくに20代から30代の若年層男性に広く美意識の高まりが見られ、結果としてエステサロンに来店する男性が増えているのでしょう。
安価な施術を受けられるようになった
以前と比較して、エステは安価で施術が受けられるようになりました。また、新技術や最新機器を使用することによって、効果的な施術が安全に受けられるようになり、幅広い年代にアプローチができる市場へと進化していると言えます。そして市場ニーズが高まっていることで、多くの人が気軽に美容へ投資できるよう変化したとともに、自分に合った店舗を多くの選択肢の中から選べるようになっています。
相次ぐトラブルも
「通い放題のプランに料金を支払ったのに予約が全く取れない」「解約したいのにできない」「施術中に火傷などのけがをした」といったトラブルが多いのも、エステサロン業界の実態と言わざるを得ません。国民生活センターへ寄せられるエステサロンに関する相談は、1年間に約2,800件以上寄せられていると言われています。
大手脱毛サロンの経営破綻のニュースが世間を騒がせた影響で、脱毛サロンのみならず、エステサロン全般に対して不安になる顧客を増やしてしまった可能性もあるでしょう。エステ業界の市場を安定化させるには、その不信感を払しょくして、安心して顧客が通えるサロン作りで信頼を回復させるのが急務です。
インターネットをフル活用する時代に
エステサロンのマーケティングに使われる媒体と言えば、従来はテレビCMやチラシ、フリーペーパーが主流でした。ところが近年では、インターネットを活用した集客に、多くのサロンがシフトチェンジしています。Webでの集客に力を入れるのがもはや当たり前となっているのではないでしょうか。とくにSNSを活用することで、ターゲット層に効果的に働きかけるサロンが増えています。
動画広告で視覚に訴えたり、広告を通して手軽に来店予約につなげたりと、スマホ世代とWebでの集客は非常に親和性が高いと言えるでしょう。Webを利用してのマーケティングは、テレビCMや紙媒体よりもリーズナブルに利用できるのもメリットです。
人手不足による店舗の整理統合
少子高齢化の影響で、どの業界においても人手不足は深刻な問題となっています。エステ業界はとくに、人手不足がサービスの質の低下につながりやすい業種の一つでしょう。サービスの質の低下は、サロンのイメージダウンに直結してしまいかねません。
そこで近年、大企業では、売上の落ちている店舗の整理が始まっています。売上の芳しくない店舗を整理するとともに、優良店舗を強化していくことで収益のアップを狙う、そういう流れで加速していくことが十分考えられるでしょう。また中堅企業を傘下にして、買収された側の中堅企業のブランドも維持しつつ、新たな客層を取り入れることで拠点拡大を目指す、M&Aも活発になっています。
セルフエステの需要が拡大
労働人口の減少が問題視されているのは、エステ業界も同様です。とくにエステ業界は手技ありきのサービスが特徴のため、人手不足は深刻かつ緊急の課題だと言えるでしょう。人材を育てるにしても、技術の習得が必要となるため、どうしても時間がかかってしまうのが現状です。
そのような人手不足問題に対して大きな話題を集めているのが、セルフエステです。このセルフエステは、自宅で美顔器などを使用するのではなく、エステサロンに来店した上で、自分で機器を当てて施術を行うものなのです。利用者にとっては業務用の機器を手軽に使え、エステティシャンとの接触を気にする必要もありません。利用料もリーズナブルなことが多く、自分の都合の良い時にスポーツジム感覚で通える点も、人気を集める要因でしょう。サロン側としても、セルフエステなら人材不足にもってこいだと言えます。
定額で使い放題のサブスクサービスを提供するサロンも登場しています。現代人のライフスタイルや意識とよくマッチした形態だと言えるでしょう。
フェイシャルエステの利用減・痩身エステの需要増
元々はエステメニューの中でもフェイシャルは高い人気を誇っていました。ところが新型コロナウイルスの蔓延によって、エステティシャンと至近距離でマスクも外さなければならないフェイシャルは、倦厭されるようになってしまっています。
逆に需要の高まっているのが、痩身エステです。これも新型コロナウイルスの影響が考えられているのはご存じでしょうか。コロナ禍で行動制限されたことにより自宅時間が増え、体重の増加や体形の崩れを気にする人が増えたからだと言われています。時代や社会の流れによって需要も変化するため、社会の動向を考慮する必要があるでしょう。
エステ業界の売上ランキング
売上高を公開しているエステ企業の中で、売上高の多い企業をランキング形式で紹介していきます。
・1位「株式会社ミュゼプラチナム(ミュゼプラチナム)」:売上高394億4,728万円
・2位「TBCグループ株式会社(エステティックTBC)」:売上高309億5,100万円
・3位「ミス・パリ・グループ(エステティック・ミス・パリ)」:売上高151億円
・4位「株式会社不二ビューティ(たかの友梨ビューティクリニック)」:売上高93億7,000万円
・5位「株式会社ザ・フォウルビ(ジェイエステティック)」:売上高70億円
1位には、一時期倒産の噂もあった脱毛大手の「株式会社ミュゼプラチナム」が入りました。次いで「ソシエ」を買収した「TBCグループ株式会社」、エステティックの専門学校運営も行う「ミス・パリ・グループ」が続きます。
エステ業界の直面している課題とは?
現在、エステ業界はどのような課題に直面しているのでしょうか。
エステティシャン不足
人材不足はエステ業界に限らないものの、エステ業界は人の「手技」に頼る部分が多いため、優秀な人材が必要なのです。ところが優秀な人材は、他店に引き抜かれる、自分で開業するなどしがちで採用が難しいでしょう。またエステティシャンの大部分が女性であり、出産・育児などで離職する率の高いことも定着率の低さにつながっています。
集客の難しさ
エステサロンの競争は年々激化しており、新規開業するに当たっての顧客獲得は大変難しいでしょう。大手エステチェーンなら広告宣伝費を掛けられるものの、大部分の個人経営・小規模店舗エステサロンの予算は限られているのが現状です。また、Webを活用したマーケティングは比較的費用の掛からないものの、多くのエステサロン経営者はノウハウ不足で効果的に運用できていないものです。
エステ業界の集客問題克服には、マーケティングのノウハウを構築し、効果的にWebを中心としたマーケティングを行っていくことが必須だと言えるでしょう。
価格競争の激化
セルフエステや定額制で通い放題のサブスクメニューなどの登場によって、エステサロンの価格競争は激化しています。低価格競争に参入すれば顧客は増えるかもしれませんが、安定した収益を得るのは難しくなるでしょう。顧客にとっては嬉しい低価格競争ではあるものの、大きな視点で見ればエステサロン市場規模の縮小、そしてエステ業界の衰退を招きかねないでしょう。
新規参入の増加
実はエステサロンの開業に当たって特別な免許・資格は不要なため、比較的容易に新規参入が可能な業界だと言えます。既に飽和状態とも言えるエステサロン業界に、さらに多くの個人サロンが新規参入してくることにより、業界内の競争は激化しています。そこで必要なのが、他店との差別化でしょう。
具体的にはサービスの品質・マーケティング戦略・顧客体験などで差別化を図っていくことが考えられます。また、ブランド戦略、顧客忠誠度の向上も効果的でしょう。
今後のエステ業界の将来性は?
新型コロナウイルスの流行によって一時的に落ち込みを見せたエステ業界は、新規参入の多さや低価格競争の激化などにより、将来性は厳しいものだと思われるかもしれません。ところが実際は、顧客のニーズは高まっており、今後しばらくは順調に推移していく市場だと言えます。新規顧客を開拓していけば、市場規模も十分拡大が見込めるでしょう。
今後のエステ業界で生き残るためのポイントとは?
抱える課題も多いエステ業界ではあるものの、まだまだ市場規模の拡大も見込めます。そのようなエステ業界において、生き残れる店作りのポイントを紹介していきましょう。
新たな顧客層へのアプローチ
各エステサロンではターゲット層を絞って営業していることでしょう。ただしシェア拡大を図るなら、これまでターゲット層としてこなかった層にターゲットを広げてみるのも一つの手だと言えます。
たとえば、近年市場を急拡大させているメンズエステサロンについて導入を検討することが考えられます。ただし、他店でも同じような動きが考えられるので、導入するなら早期に決断した方がベターでしょう。
最新機器の導入
費用は掛かるものの、売上アップや集客率アップを目指すために最新のエステ機器を導入するのも一つの手です。スマホの普及によって、エステだけでなく飲食店や美容室など、初めて訪れる店舗について事前に口コミなどの情報を検索して調べる顧客が増えているのはご存じでしょうか。
エステサロンを利用するのが初めての客でも、実は施術についてさまざまな情報を事前に仕入れていることが考えられるのです。最新のエステ機器を導入すれば、その機器を目当てに来店する顧客が見込めるでしょう。最新機器の導入コストが気になる場合は、分割払いやローン、レンタルなども検討してみるのをおすすめします。
専門家に相談する
エステサロンの施術について専門知識を豊富に持つ経営者だとしても、経営自体は分からないことが多いのではないでしょうか。その場合は、サロン経営実績の豊富な専門家に相談するのも効果があるでしょう。プロの視点で客観的にサロンを見てもらい、改善施策の指導が受けられます。
他店との差別化・リブランディング
新業態・新規参入のサロンが続々とオープンする中で生き残っていくには、他店との差別化が必須です。これまでの経営方針を振り返って、自社にとって足りないもの・今の時代に求められているものを洗い出し、方向性を見直したりリブランディングしたりしていきましょう。
その時に、ターゲット層も明確にする必要があります。たとえば高級志向に思い切って振り切り、ラグジュアリーなサロン・会員制のサロンにするなら、ターゲット層はやや年代が上の女性の方が良さそうです。また、話題の機器を導入してトレンドに合わせるなら、流行に敏感な層がターゲットになるでしょう。リブランディングとともに、ターゲット層の見直しをすることで初めて、他店との差別化につながっていきます。
労働環境の見直し
優秀な人材を採用後に確保しておくには、労働環境の見直しが大切でしょう。産休制度や育休制度、時短制度などを充実させたり、給与の引き上げを検討したりと、労働環境を改善していくことで長期的な雇用が実現するはずです。
技術力・接客マナーの向上
エステサロンにおいて、施術の良し悪しを最終的に決定づけるのはエステティシャンの技術力だと言えます。安定した収益を目指すなら、スタッフ全体の技術力を向上させていく必要があるでしょう。技術力のあるエステサロンはお客様の満足度が向上し、再来店率を上げるのはもちろん、良い口コミから利用客の増加も見込めるのです。
また、顧客にとってエステサロンは、日常から離れてリラックスできる優雅なひと時を味わえる場だと言えます。そのため、丁寧な接客も大切だと言えるでしょう。技術力・接客マナーの向上には、社内研修を定期的に開催することが考えられます。
ネットの活用
マーケティングはもちろん、予約にもネットを利用することで経営を安定化させられる可能性があるのはご存じでしょうか。美容室の集客サイト「ヘアログ」によると、ヘアサロンを探す際には、予約サイトやサロンの検索サイトを利用する比率が非常に高くなっているそうです。エステ業界においても、株式会社リクルートの調査によると、予約数の半数以上がスマホからのネット予約となっているのです。予約管理をネットで行えば、スタッフが予約対応に充てていた時間を施術に充てられ、売上アップにもつなげられるでしょう。
まとめ
新型コロナウイルス流行の影響で落ちこんだものの、今後エステ業界の市場規模はコロナ以前程度の回復が見込まれています。さらにセルフエステやメンズエステサロンといった、新たなエステの需要も拡大していくことでしょう。時代のニーズに合ったエステサロンを経営することで、今後も十分生き残れるはずです。ただしそれには、他店との差別化を図ったり、Webを上手に使って集客を増やしたり、最新機器を導入したりといった施策を実行していく力が求められるでしょう。