ビジネスシーンでしばしば使われる言葉に「ビジョン」があります。なんとなく意味は解りますが、実際に「ビジョンとは何か?」といわれるとよくわからない方もいらっしゃるでしょう。ビジョンを提示し、社内浸透させることで大きなメリットを享受できる可能性が期待できます。ここでは企業ビジョンとは何か、実際に活用している企業の事例について紹介していきます。
そもそも企業ビジョンとは?
ビジョンとは英語で「将来の計画や洞察力」といった意味の言葉です。企業ビジョンは、その企業が将来どうなりたいのか、その目標といった意味合いが込められています。
長期経営計画のフレーズ
企業ビジョンとは、企業の未来のカタチといえます。「売上10億円を突破する」「自社製品の売上100万個突破」のように具体的な数字を掲げる企業がよく見られます。また企業ビジョンはずっと同じものにしないのもポイントの一つです。目標達成すればまた別のステージのビジョンを掲げる必要が出てきます。
また、社会の在り方が変わるにしたがって、社会の流れに沿ったものへ変更する必要もあるでしょう。数年後の企業のあるべき姿を象徴した言葉なので、長期経営計画と同じような意味で使われる言葉です。
企業理念との違い
企業ビジョンとともに、会社概要に「企業理念」を掲載している法人も少なくありません。同じようなものととらえている人もいらっしゃいますが、細かく見ていくと意味が異なります。企業理念は創業者やトップの会社への思いや価値観を表すフレーズです。
たとえば出光興産は「人間尊重」を企業理念の一つに掲げています。企業としてあるべき姿を現したフレーズといえるでしょう。「将来実現したいこと」を意味した企業ビジョンとは違い、思想や哲学を表す言葉です。なお、「ミッション」という言葉も企業理念と同様の意味合いで使われます。
ただしビジョンも理念も、最終的に目指すべき事柄であることは一緒です。企業を末永く続け、成長を続けるために必要な運用方針なのです。
バリューとの違い
会社のホームページの中で「OUR VALUE」を掲載している企業も少なくありません。VALUEとは「価値」もしくは「価値観」を意味する英単語です。VALUE(バリュー)とは、ビジョンやミッションを達成するための短期的かつ具体的な目標という位置付けになります。このため、ビジョンは1つだけに対してバリューを複数個設定している法人も多く存在します。
企業ビジョンを検討する重要性
「企業ビジョンなんてただの言葉だからあってもなくてもいいのでは?」と思う人もいらっしゃるかもしれません。しかし、企業ビジョンを打ち出している法人の多いことからもうかがえるように、ビジョンを掲げることは重要な意味合いを持ちます。企業がこれから歩むべき道を示す「指標」としての役割を果たすからです。
方向性が明確になる
企業ビジョンを掲げることで、法人が目標にすべきことがはっきりします。従業員にビジョンを提示することにより、社員のモチベーションを高められる上、会社へのコミットメントが向上します。同じ方向を社員が向くことで、会社の団結力も高まるでしょう。
また、社外に対しても方向性を示すことには意味があります。お客さんや取引先のイメージアップが期待できる上、投資家がそのビジョンに共感し出資してくれるかもしれません。また求人を出すにあたってビジョンを明快に打ち出すと、求職者が「一緒に働いてみたい!」という応募に前向きな気持ちにさせる効果も期待できます。
行動基準のベースになる
経営陣から現場レベルまで、企業活動する際には何か決断を迫られる場面も出てくるでしょう。この時判断に迷った際に、企業ビジョンが大きな判断材料になりえます。企業ビジョンに合致すれば行動すべきですし、企業ビジョンに反する行為なら排除すればいいわけです。従業員が企業ビジョンを共有できていれば、ある決断に同意してくれるでしょう。
明確なビジョンが提示されることにより、従業員間で意見が分かれる恐れも低くなります。また、社内のコミュニケーションも円滑になり、意思や意見の齟齬も起きにくくなります。
常に進化できる
先ほども紹介したように、企業ビジョンは法人の将来あるべき姿を象徴したものです。つまり、ビジョンを達成した場合、次のステージに進むための新しいビジョンが必要になります。その時々でビジョンを見直すことで、今までの考えや価値観に固執することなく、常に進化できるでしょう。
事業ステージや時代の変化に柔軟に対応し、その時々にマッチするビジョンを打ち出すことで自社業務の見直しができます。時代によりマッチする枠組みを積極的に取り入れることで、時代に取り残されることなく生き残れる可能性も高まるはずです。
経済界も時代の変化に合わせて、重視するものは変わっていきます。たとえば近年注目されているのが「エコ」というキーワードです。これまでは安価な原材料で製品を大量生産すればよかったかもしれません。しかし地球環境重視の現代、消費者も環境保護の観点に立った企業か、地球にやさしい製品かという視点で見るようになりました。
企業ビジョンをその時々で見直すことで、このような時代の変化にもフレキシブルに対応できるはずです。
企業ビジョンを浸透させる方法とは
ビジョンを策定することは必要ですが、せっかく作ってもそれが従業員に浸透していなければ元も子もありません。ビジョンを打ち出すだけでなく、いかに社員にその思いを浸透させ、ビジョンに則った行動ができるかがポイントです。社内に浸透させるためには、いくつかのフェーズに基づき進めていく必要があります。
理解させる
まず行わなければならないのは、社員に会社オリジナルのビジョンがあることを理解してもらうことです。とくに大企業になると経営陣との距離が遠く、ビジョンは知っていてもどこか他人事に思いがちです。
そこでビジョンは自分に直接関係してくる問題であるように理解してもらう必要があります。社長が直々にメッセージの出せる機会を設ける、朝礼のたびにビジョンについて言及するなどの工夫が必要です。会社のトップからビジョンについての言及を行うことで、社内に浸透し、社員も自分事として捉えてくれるようになるでしょう。
共感してもらう
ビジョンを理解しても、従業員がその思いに共感してくれなければ意味がありません。ビジョンを受け入れてくれない限り、社員の行動指針にならないからです。共感してもらうためにはただ言葉だけを伝えるだけでは、ピンと来ないかもしれません。
そこでおすすめなのは、何かしらのストーリーに含めることで周知徹底する方法です。経営者がどのような思いでビジョンを打ち出しているのか、お客さんへの思いとの関連性などその背景にあるストーリーを含めて説明すれば、従業員もその思いを共有しやすくなります。
実践させる
ビジョンを理解してもらい、共感しても形だけに終わってしまっては、日々の経済活動になかなか反映されません。実際の業務に紐づけるためには、具体的な行動の中で実践してもらえるような環境づくりを進めましょう。そのためにはビジョンと関連した評価指標などを具体的に策定することです。
ビジョンに則った行動が社内評価につながることを従業員に理解してもらえれば、社員それぞれが自発的にビジョンを重視して行動してくれます。また従業員が同じ方向を向くので、社内の結束も強固なものとなるはずです。
協働意識の植え付け
ビジョンが浸透し、各従業員がビジョンを念頭に置きながら活動できるようになれば、協働意識も自然と植え付けられるでしょう。ビジョンを具現化できている人はおのずと社内で評価され、それが社内報などで取り上げられれば、「自分も頑張ろう」というモチベーションアップにつながります。
このフェーズまで到達できると、社内だけでなく社外へのブランディング効果も期待できます。社外に企業ビジョンを積極的に発信することで、「具体的な目標のもとに一致団結している会社である」と好意的に見てくれるからです。
ビジョン策定の注意点
ビジョンを作るときに、会社と個人のビジョンが異なる点を理解しておく必要があります。もし企業のビジョンが個人のビジョンの延長線上にあれば、従業員も企業ビジョンをより深く理解し、共感してくれるでしょう。組織の団結力も強まり、パフォーマンスが最大限に発揮できる環境も整備できます。
そのためには、個人のビジョンが組織のビジョンを掘り下げていく形で形成されるのが理想です。組織のビジョンを達成するためには従業員それぞれが何をしなければならないのか、それを達成するためには何が求められているのか、意識付けできるような環境を作りましょう。
ビジョンマップを作ってみよう
どのようなスローガンを掲げればいいか迷っている場合、ビジョンマップを作成することも効果的です。ビジョンマップとは、簡単に言えば「会社の未来図」です。法人代表者が会社を将来どうしたいか、大元の青写真を描きます。しかしこれだけだと、代表者の思いをトップダウンで押し付けるだけになりかねません。そこでさらに役員や社員の思いをヒアリングして、彼らの気持ちもマップの中に反映する作業を進めます。
図表化することで、会社の未来のあるべき姿に到達するために現状何が不足しているのか、トップと現場との間にギャップがないかなどを確認できます。ビジョンを作ろうと思っているけれども、具体的なフレーズがなかなか出てこないのであれば、このビジョンマップをまずは作ってみましょう。自分たちがそれまで思ってもいなかった理想像が見えてくることもあります。
企業ビジョンの大手事例を紹介
ビジョンを作るにあたって、ほかの会社のものを参考にするのも一考です。自分たちに近い運営スタイルやスタンスをとっている法人のビジョンは共感できるでしょうから、参考になるはずです。まずは大手事例について主要なものをいくつかピックアップしてみたので参考にしてください。
味の素
調味料メーカーの味の素では、グループビジョンとして、「グローバル健康貢献企業グループ」を目指すとしています。食は私たちの健康のベースになるものです。いつまでも健康的な生活を続けることは、全員にとっても目標で理想ともいえるものです。
また、現在、食はボーダーレスになってきています。海外旅行も珍しくない上、国内にいてもいろいろな世界の料理を口にできるようになりました。そこで、味の素ではグローバル規模で健康に貢献できるような企業像を目標にすると明示しています。
dentsu
日本を代表する広告代理店のdentsuでは「an invitation to the never before.」というビジョンを掲げています。「今までにない世界への招待」という意味のフレーズです。「今までにない世界」とは、多種多様な人たちがオープンに集まる場所をイメージしています。
誰でもどこからでもイノベーションあふれる仕事の創出できるような世界を目指すという意味が、このビジョンには込められています。イノベーションあふれる仕事を書く従業員が推進することで、見たことのない景色を提供できるわけです。
LINE
常日頃仕事やプライベートで、LINEを利用している人も多いでしょう。LINEのビジョンは「世界中の人と人、人と情報・サービスとの距離を縮める」ことです。スローガンの指し示すメッセージの通り、LINEは今ではただテキストのメッセージをやり取りするだけでなく、さまざまなコンテンツが出てきています。
電話でコミュニケーションを取る、LINE PayというQRコード決済なども可能になりました。ユーザー同士だけでなく、あらゆるものといつでも適度な距離でつながれます。
企業ビジョンの中小事例について紹介
企業ビジョンは大手だけでなく、中小企業でもオリジナルのメッセージを掲げることで、会社の団結力を高めようとしているところも少なくありません。中小事例で参考になるビジョンをここでいくつかピックアップしてみました。
セールスフォース
株式会社セールスフォースドットコムは、近頃注目されているクラウドサービスを展開している法人です。主に顧客関係の管理に関するソリューションサービスを提供しています。セールスフォースの企業ビジョンは「あらゆる人のために、サステナブルな未来の実現を目指す」としています。サステナブルとは最近しばしばメディアでも取り上げられている言葉です。
サステナブルとは、「持続する」という意味の「sustain」と「~できる」という意味の「able」をあわせた言葉で、「持続可能」という意味があります。地球温暖化を防ぐためのSDGsで使用されている言葉です。このように現在の地球全体の課題を意識したビジョンは、将来にわたって活躍するために欠かせないことです。実際株式会社セールスフォースドットコムでは、脱炭素社会の実現に向けた各種取り組みを進めているといいます。
アルファックス
アルファックスとは大阪市に本社のある健康・美容雑貨などの企画製造を行っている中小企業です。アルファックスでは、「プロとしての創意工夫を発揮して開発した商品を通じて人々に夢と便宜を供して社会に貢献し会社の継続的な発展と社員の生活の向上を目指す」というビジョンが掲げられています。
このビジョンは3つのポイントによって構成されています。まず、「プロとしての創意工夫を発揮して開発した商品を通じて」で品質管理の目標を打ち出しており、「人々に夢と便宜を供して社会に貢献し」という点は顧客の望むものを提示しようという決意の表れです。最後に「会社の継続的な発展と社員の生活の向上を目指す」として会社の将来的な姿を提案しています。
これは、人々の役に立つ商品を提供することで社会貢献を果たし、継続的に企業を発展させたいという思いの表れです。こちらの会社ではビジョンを会社の基本方針としています。未来像だけでなく、信条や経営理念の要素も込められているわけです。
井上商事
井上商事は福井県に本社があり、主にアルミニウムの外装建材を製造・販売しています。井上商事のビジョンは、「人を大切に独自の優れた製品やサービスを創造し、顧客満足を追求し続ける事で、人財成長ナンバーワン企業になる」です。「人財成長ナンバーワン」になることを目標に掲げるだけでなく、「顧客満足を追求し続ける」といった経営方針も含めています。
中小事例を見るとただのフレーズだけでなく、経営理念や方針までも含めたフレーズに仕上がっているのが特徴といえます。ビジョン作りにあたって、構成など制約はありません。企業理念を含めてしまっても、別に問題ではありません。
まとめ
ビジョンとは法人がこれからどうなりたいのか、将来像を象徴するものです。ビジョンを掲げ、従業員が理解することで社内の全員が同じ方向に向かって仕事ができます。協働意識も高まるので、作業効率もアップして生産性も向上するでしょう。ただしただビジョンを掲げるだけで、従業員がその意味や想いを理解していなければ、その意味も半減してしまいます。ここで紹介したサイクルを駆使して、従業員にビジョンを理解させ、日々の経済活動で実践してもらうことが大事です。